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千葉地方裁判所 昭和53年(わ)167号 判決

主文

被告人吉川栄一を懲役二年六月及び罰金二万円に、被告人吉田和雄、同望月裕恭、同小下郁夫をそれぞれ懲役二年に、被告人石井新二、同石井章司をそれぞれ罰金二万円に、その余の被告人をそれぞれ懲役一年六月に処する。

未決勾留日数中、被告人髙橋辰己に対しては二七〇日を、被告人髙橋辰己、同石井新二、同石井章司、同山本和志を除くその余の被告人に対しては各一〇〇日をそれぞれの懲役刑に算入する。被告人吉川栄一、同石井新二、同石井章司においてその罰金を完納することができないときは、金二〇〇〇円を一日に換算した期間、その被告人を労役場に留置する。

被告人石井新二、同石井章司を除くその余の被告人に対し、この裁判の確定した日から四年間それぞれの懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は、別紙訴訟費用負担表記載のとおり被告人らの負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人石井新二は、新東京国際空港(以下「空港」という。)の成田設置に反対する三里塚芝山連合空港反対同盟(以下「反対同盟」という。)に所属するもの、その余の被告人三四名は、いずれも第四インターなどの右反対同盟を支援する新空港建設反対派の諸セクトに所属、或いはこれらに同調するものであるが、右反対同盟及びこれを支援する空港建設反対派の諸セクトは、空港建設反対運動の拠点として空港建設用地に接する千葉県山武郡芝山町岩山地内に構築していた通称第一鉄塔及び第二鉄塔が、昭和五二年五月六日妨害物除去仮処分決定の執行によって除去され、空港建設反対闘争の拠点を失ったことから、第四インターを中心として新東京国際空港公団が建設予定の第二期工事区域内の着陸帯Bの進入区域内に鉄筋コンクリート造りの要塞を建設し、同要塞上に鉄塔を取付けてこれを空港建設反対闘争の新たな拠点とすることを企図し、千葉県山武郡芝山町香山新田字横山一一五番一所在三の宮武二所有の農地に鉄筋コンクリート造り地下一階、地上二階建の建造物(地上高約六・四メートル、間口、奥行とも約一一・九メートル。以下、「横堀要塞」という。)を構築していたところ、

第一  被告人石井新二、同石井章司、同吉川栄一は、ほか多数の者と共謀のうえ、公共の用に供する飛行場である新東京国際空港につき、昭和四二年一月三〇日運輸省告示第三〇号をもって運輸大臣から右空港の各滑走路の進入表面等に関する告示がなされた後である昭和五三年二月四日午後八時三〇分ころから翌五日午後二時ころまでの間、同空港着陸帯Bの進入区域内であって、同着陸帯の南端から南方約五二六メートルの地点にある前記横堀要塞上に、右告示で示された進入表面から上に約二一・八メートル突出する鉄骨組立の三、四階(高さ約五・八三メートル)及びその上に鉄塔一基(高さ約二〇・三メートル)を設置し、

第二  石井新二、石井章司を除くその余の被告人三三名は、ほか数名の者と共謀のうえ、被告人髙橋辰己を除く被告人らにおいて、

一  同月六日午前六時ころから同日午後一〇時三〇分ころまでの間、被告人吉川、同吉田、同望月、同小下の四名は更に翌七日午後九時三〇分ころまでの間、前記横堀要塞において、同要塞の検証、捜索差押の実施及びその警備並びにこれらに対する違法行為の規制、検挙などの任務に従事中の千葉県警察本部長指揮下の多数の警察官らの生命、身体に対し共同して危害を加える目的をもって、多数の火炎びん、石塊、鉄パイプなどの兇器を準備して集合し、

二  前記第二の一記載の日時、場所において、前記職務に従事中の警察官に対し、多数の火炎びん、石塊などを投げつける暴行を加え、もって火炎びんを使用して右警察官らの生命、身体に危険を生じさせるとともに、同警察官らの職務の執行を妨害し、その際、右暴行により、別紙被害者一覧表番号1ないし12の千葉県警察本部第二機動隊所属の警察官越川隆ほか一一名の警察官に対し、被告人吉川、同吉田、同望月、同小下の四名は更に同表番号13の警察官青柳博に対し、同表記載のとおりの各傷害を負わせた

ものである。

(証拠の標目)《省略》

(確定裁判)

被告人石井新二は、昭和五二年七月二九日千葉地方裁判所において建造物侵入、暴力行為等処罰に関する法律違反の罪により懲役一〇月、四年間執行猶予に処せられ、右裁判は昭和五七年六月二日確定したものであって、この事実は検察事務官作成の右被告人の前科調書及び右判決謄本によってこれを認める。

被告人髙橋辰己は、昭和五六年一月二二日千葉地方裁判所において兇器準備集合、公務執行妨害の罪により懲役一年六月、五年間執行猶予に処せられ、右裁判は昭和五六年二月六日確定したものであって、この事実は検察事務官作成の右被告人の前科調書(丙)によってこれを認める。

(法令の適用)

一  被告人吉川について

被告人吉川の判示第一の所為は、刑法六〇条、航空法一五〇条二号、五六条、四九条一項本文に、判示第二の一の所為は、刑法六〇条、二〇八条の二第一項、罰金等臨時措置法三条一項一号に、判示第二の二の所為中、火炎びん使用の点は刑法六〇条、火炎びんの使用等の処罰に関する法律二条一項に、公務執行妨害の点は刑法六〇条、九五条一項に、各傷害の点は同法六〇条、二〇四条、罰金等臨時措置法三条一項一号に該当するところ、右判示第二の二の所為は一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により、結局以上を一罪として最も重い平山正二に対する傷害罪について定めた懲役刑で処断することとし、判示第二の一の罪の刑について所定刑中懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により重い判示第二の二の罪の刑に同法四七条但書の制限内で法定の加重をし、罰金刑については同法四八条一項によりこれを右懲役刑と併科し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役二年六月及び罰金二万円に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中一〇〇日を右懲役刑に算入し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文により別紙訴訟費用負担表記載のとおりこれを被告人に負担させることとする。

二  被告人石井新二、同石井章司について

被告人らの判示第一の所為は、刑法六〇条、航空法一五〇条二号、五六条、四九条一項本文にそれぞれ該当するところ、被告人石井新二については、右は前記確定裁判のあった罪と刑法四五条後段の併合罪であるから、同法五〇条によりまだ裁判を経ない判示の罪について更に処断することとし、各所定金額の範囲内で、右被告人二名をそれぞれ罰金二万円に処し、その罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二〇〇〇円を一日に換算した期間その被告人を労役場に留置することとし、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文により別紙訴訟費用負担表記載のとおりこれを被告人らに負担させることとする。

三  その余の被告人三二名について

その余の被告人三二名の判示第二の一の所為は、刑法六〇条、二〇八条の二第一項、罰金等臨時措置法三条一項一号に、判示第二の二の所為中、火炎びん使用の点は刑法六〇条、火炎びんの使用等の処罰に関する法律二条一項に、公務執行妨害の点は刑法六〇条、九五条一項に、各傷害の点は同法六〇条、二〇四条、罰金等臨時措置法三条一項一号にそれぞれ該当するところ、判示第二の二の所為は一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により、結局以上を一罪として最も重い平山正二に対する傷害罪について定めた懲役刑で処断することとし、判示第二の一の罪の刑について所定刑中懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから(但し、被告人髙橋辰己については、右判示各罪と前記確定裁判のあった罪とは同法四五条後段の併合罪であるから、同法五〇条によりまだ裁判を経ていない判示各罪につき更に処断することとし、)、同法四七条本文、一〇条により重い判示第二の二の罪の刑に同法四七条但書の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で、被告人吉田、同望月、同小下をそれぞれ懲役二年に、その余の被告人二九名をそれぞれ懲役一年六月に処し、同法二一条を適用して被告人髙橋辰己については未決勾留日数中二七〇日を、被告人髙橋辰己、同山本を除くその余の被告人三〇名については未決勾留日数中各一〇〇日をそれぞれその刑に算入し、右被告人三二名に対し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から四年間右各刑の執行を猶予し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八条一項本文により別紙訴訟費用負担表記載のとおりこれを被告人らに負担させることとする。

(本件公訴事実中、被害者福沢貞治、同小島敏宏に対する各傷害の事実を認めなかった理由について)

被告人吉川栄一、同吉田和雄、同望月裕恭、同小下郁夫についての本件公訴事実中、福沢貞治、小島敏宏に対する各傷害の点については、《証拠省略》によれば、各被害者が、起訴状記載の日時、場所において本件鉄塔上から落下してきたバッテリーにより起訴状記載のとおりの各傷害を負ったことは認められるが、右バッテリーの落下が、被告人らの所為によるものと認めるに足りる証拠はない。すなわち、各被害者において被告人らが右バッテリーを投下し、或いは落下させたことを目撃しておらず、これを目撃した者の供述も存しない。更に、司法巡査荒光雄作成の昭和五三年二月一五日付写真撮影報告書の写真三一、三二によれば、被告人らのうちの誰かが鉄塔中段の板囲いの外側に張り出されたベニヤ板様の板の上にあった本件バッテリーを落下させたのではないかとの疑いはあるが、同写真二九、三〇と対比してみると、同写真三一をもって直ちに右のように読みとるには疑問があるばかりでなく、同写真三二は本件バッテリーが落下する瞬間を撮影したものと認められるのに、右写真には被告人らの姿が一人も写っていないこと、また同写真の一九ないし二八及び各被害者の供述によれば、本件バッテリーは本件当日午後三時一三分ころ既に右ベニヤ板様の板の上に置かれていたと認められるところ、右写真三二によれば下から伸びたパイプ様のもので右板が大きく突き上げられており、これに各被害者の供述及び押収してあるビデオテープによると、各被害者が負傷したとされる同日午後四時五五分ころから午後五時ころにかけ、二階屋上にいた警察官らが継ぎ足した長い鉄パイプ様のもので下から前記ベニヤ板様の板を突き上げ、これを激しく上下に揺すった際に右バッテリーが落下したのではないかとの疑問も存すること、また本件においては、被告人らにおいて警察官らの右のような行為を利用して本件バッテリーが落下するように仕組んだと認めるに足りる証拠もないことなどを総合すると、本件バッテリーの落下が被告人らの所為によるものとするには疑問が存するといわざるを得ない。なお、本件問題のバッテリーは右の一個と思われるが、仮にこれが二個であり他の一個について被告人らが投下し或いは落下させたものであったとしても、どのバッテリーがどの被害者に当ったのか明らかでないことになるから、いずれの場合においても、この点については結局犯罪の証明がないことに帰するが、右の事実は、判示第二の二の一個の公務執行妨害罪と観念的競合の関係にあり、一罪の一部となるので主文において特に無罪の言渡しをしない。

(弁護人の主張に対する判断)

一  被告人髙橋辰己に対する共謀共同正犯の成否について

弁護人らは、被告人髙橋辰己について、同人は本件兇器準備集合、火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反、公務執行妨害、傷害につき共謀共同正犯として起訴されたものであるが、右共謀の事実は存しない旨主張する。

しかし、岩田等の検察官に対する各供述調書、第四一回公判調書中の証人岩田等の供述部分によれば、右岩田等は、昭和五三年二月五日午後一〇時ころ第四インター朝倉団結小屋に呼び出され、同小屋附近において第四インターの現闘団長として同小屋に常駐していた被告人高橋辰己から、被告人綿屋とともに「ある筋からの情報だと機動隊が横堀要塞に来るらしい。来たらそれだけで済まなくなる。君ら二人横堀に行ってくれ。逮捕されることは間違いないだろうが、君らは大丈夫か。徹底抗戦して三日間位持ちこたえればそれで十分だ。」「五・八(昭和五二年五月八日の事件のこと)で使ったのが火炎びん二〇〇本だったけど、今度はその一〇倍の二〇〇〇本の火炎びんを用意してあるし、その他いろいろおもしろい物がある。」などと告げられ、被告人綿屋とともに横堀要塞にたてこもって機動隊と闘うことを指示され、被告人髙橋辰己の運転する自動車で右要塞まで連れて行かれ、要塞内に入ったこと、そして、岩田は要塞内に入って直ちに火炎びんの製造に従事し、その後、他の被告人らとともに共同して機動隊に対して火炎びん等を使用して攻撃を加えたことなどが認められる。

これに対し、被告人髙橋辰己は、右岩田及び被告人綿屋を要塞に送り届けた事実はあるが、これは要塞建設要員としてであって、右両名に要塞に籠城して機動隊と闘うように指示した事実はなく、右両名を送り届けた時点においては翌朝機動隊が出動するという情報に接していなかった旨弁解しているが、右岩田のほか、同じく第四インターに属する自見治久の検察官に対する各供述調書、第四二回公判調書中の証人自見治久の供述部分によれば、自見治久も同年二月五日午後九時ころ、機動隊の出動を察知し、要塞内では、直ちにこれに対応すべく火炎びんを用意し、攻撃用の足場を作り、押収を免れるため建築資材を他に搬出するなどの準備を始めた旨供述しており、右岩田、自見の検察官に対する各供述調書の供述内容は、いずれも詳細具体的であり、同人らにしてはじめて述べられる事項を含んでおり、公判廷においても、右供述内容は、当時記憶どおり供述し、間違いなく録取された旨答えているものであって、十分信用するに値するものと認められ、右事実によれば、被告人髙橋辰己に共謀があったと認めるに十分である。これに反する被告人髙橋辰己の弁解等は、右各証拠に照らし、採用することはできない。

たしかに、第二〇回公判調書中の証人高梨久武の供述部分によると、千葉地方裁判所から本件検証、捜索差押許可状が発付されたのが、所論指摘のとおり同年二月五日午後九時四〇分ころであったことは認められるが、そうだからといって、直ちに被告人髙橋辰己が、警察をはじめ機動隊の動静について全く知らなかったということはできないばかりでなく、証拠によって認められる二月五日夜から翌六日にかけての要塞内の動き、準備の状況等に徴すると、右事実をもって直ちに前記岩田、自見の供述内容を否定するに足りるものとは認め難い。

二  航空法違反の罪の成否について

1  弁護人らは、昭和四二年運輸省告示第三〇号(以下「本件告示」という。)には、着陸帯Bの短辺の標高が規定されておらず、それ故着陸帯Bの進入表面も確定されていないことになるから、航空法四九条一項の構成要件は明確性を欠き、罪刑法定主義に違反すると主張する。

たしかに、本件告示には、本空港着陸帯Bの進入表面特定の基準とされている着陸帯Bの短辺の標高について、ことさらに独立の項目を設けて表示されていないことは所論指摘のとおりである。しかし、本件告示には「飛行場の位置」として、「千葉県成田市(標点位置((略))標高四一メートル)」と示されているところ、飛行場というものができるだけ水平な面のものとして設計、建設されるものである以上、本件告示中の標点位置の標高の表示は、とりも直さず飛行場の基本的構成部分である滑走路、着陸帯の標高をも表示する趣旨であると解すべきであって、結局、本件現場にかかる着陸帯Bの進入表面は本件告示中に一義的に示されているというべきであり、航空法四九条一項の構成要件が明確性を欠くということはできない。

2  また、弁護人らは、本件告示によれば、滑走路Bの供用開始予定期日は昭和四九年四月一日とされているが、工事完成予定期日が再度にわたって変更され、右供用開始予定期日を大幅に徒過し、滑走路Bを含むいわゆる二期工事の着工の目途さえ全く立っていなかった本件当時においては、本件鉄塔等の設置によって航空機の航行の安全に対する危険は抽象的にも発生していないのであるから、右所為は航空法四九条一項に違反するものとはいえないのみならず、仮に同条一項本文の規定に違反するとしても、右のように供用開始予定期日を大幅に徒過し、いわゆる二期工事について着工の目途すらも全く立っていなかった状況などにかんがみると、右告示の供用開始予定期日の定めは実質的に効力を失っているものというべきであって、本件鉄塔等については、結局同条一項但書にいう「供用開始予定期日前に除去される物件」に該当することに帰着し、また、以上の事情を考慮すれば、本件鉄塔等の設置行為には、可罰的違法性はなく、更に右事情の下で、本件を同条項違反として処罰することは、上空利用権の行使を不当に制限するものであって、財産権を保障した憲法二九条に違反すると主張する。

しかしながら、航空法四九条は、飛行場を設置するにあたり、航空機の離着陸が開始される時点において、航行の安全に障害となるおそれのあるような所定物件を一切存在しない状態にまで関係個所の整備が終っていることを究極の目的とし、その方策として飛行場設置許可の段階でいち早くこの種物件の新設等を原則として禁止して現状を固定し、かつ、既存の物件についても損失を補償して逐次これを除去してゆく措置を講ずることを内容とする規定と解すべきであって、たとえ工事完成がおくれ供用開始予定期日を大幅に徒過したとしても、飛行場の設置計画自体が全面的に断念されたものでない限り、依然として右の現状固定の利益と必要は存するものであり、現状固定の基準日としての供用開始予定期日の定めの効力は、告示を改めれば格別、直ちに事実として変更を生ずることにはならず、何ら影響はないと解すべきである。したがって、本件の鉄塔等の設置行為が同条一項本文の禁止に触れることは明らかである。そして、右のとおり供用開始予定期日についての本件告示の定めの効力に影響がないとすれば、右供用開始予定期日の経過後である本件当時においては、同項但書の当該部分については文理上適用の余地はないものといわなければならない。また、そもそも、本件鉄塔等の設置は、滑走路Bの供用に支障を生じさせることにより、予定された供用開始を遅延せしめあるいは不可能ならしめる意図の下で行なわれたものであることは証拠上容易に推認されるものであるから、本件鉄塔等が同項但書にいう「供用開始予定期日前に除去される物件」にあたると認めることはできない。そして右のような意図を有し、判示のような態様による本件鉄塔等の設置行為については可罰的違法性がないとは到底いいえず、右の行為に対し航空法の処罰規定を適用することが違憲であると解することもできない。

三  本件捜索差押、検証の違法性について

弁護人は、本件捜索差押、検証手続は、横堀要塞及び鉄塔が航空法違反にならないのに、政治的弾圧を目的として、当初から航空法違反の不存在を知りつつ執行したものであり、被告人らの所為は、右のような違法な捜索差押、検証に抵抗して行なわれたものであるから正当な行為として違法性を阻却する旨主張する。

しかし、本件について航空法違反が成立することは前述したとおりであり、本件捜索差押、検証は、適法な手続を履践して発付された許可状の執行としてなされたものであり、また、その執行方法が違法であるとは認められないばかりでなく、被告人らの所為は、右許可状の執行等に従事した警察官に対し大量の火炎びん、石塊をもって攻撃を加えたものであって、その目的、手段、態様に照らし、現行法秩序のもとでは到底その正当性を承認しえないものであることも明らかであるから、被告人らの所為が違法性を欠くとの主張は理由がない。

(量刑の理由)

本件各所為の意図、犯行の態様、規模、結果は、判示のとおり、新空港建設に反対する反対同盟及びこれを支援する諸集団が、新空港開港の実力阻止を標榜し、反対闘争の拠点として本件横堀要塞を構築し、航空法に違反する鉄塔を設置したうえ、火炎びん等の兇器を準備してたてこもり、右航空法違反に基づく検証、捜索差押の実施等にあたった警察部隊に対し、全員まさに一体となって集団で多数の火炎びん、石塊などを投てきする等の激しい攻撃を加えたものであって、その計画性、組織性、危険性そして社会的影響のいずれの点においても重大な犯罪であるうえ、多数の警察官に対し傷害を負わせる等多大の被害を与えたものである。現行法秩序を否定する被告人らの犯行は、法治国家として到底容認し得ないものであり、被告人らの刑責は重いといわなければならない。

しかし、被告人らの大部分が長期間勾留されていること、事件から六年余りの歳月を経、この間それぞれに有形無形の社会生活上の不利益を受け、或いは生活に変化を来たしていること、その他判明した限りでの各被告人らの個別的行為の内容、集団内での地位、役割、その後の生活状況等諸般の情状を考慮すると、主文のとおり量刑したうえ、懲役刑についてはその刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石田恒良 裁判官 古口満 駒井雅之)

〈以下省略〉

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